今年のきものサローネに二つの工房が出店する、大島紬。
紬でありながら軽やかで着やすく、また、独特の光沢ある質感でほんのりとフォーマル感もただよう大島紬はいつの時代も不動の人気を誇っています。
でも、「大島紬ってどうして軽いの?」「紬って普通はぽってりとしたあたたかい布なのに?」という問いに、きもの通でもちゃんと答えられる人は少ないかも知れません‥

「きものサローネで出会える“布”を訪ねて」コーナーでは、サローネ出展のきもの産地について、豆知識をまとめます。第一回目は、大島紬。ここを読んでから当日会場で、ゼヒ実物に触れてみてください。(監修・大島紬制作工程写真提供:奄美大島群島地域産業振興基金協会)

鹿児島、奄美大島で織られる布

大島紬は、鹿児島県奄美大島で織られています。
時々、東京都の大島や、場所が近いせいか沖縄の布と勘違いしている方がいますが、鹿児島県・奄美大島の紬です。
美しい海と豊かな草木に恵まれた南の島で育まれる紬、それが大島紬なのです。

column01_01

大島紬が軽くて光沢感があるワケ

結城紬や十日町紬など、一般的に「紬」と聞いて私たちがイメージするのは、ほっこりとあたたか、やわらかな印象で、やや地厚な紬かと思います。それに対して大島は、ぐっと軽くて薄地。布の質感も「ほっこり」と言うよりは「つるりとした」光沢感が特長で、着用するとどこかエレガントな雰囲気がただよいます。
どうしてこのような違いが生まれるのでしょうか?

column01_02
そのキーポイントは、絹糸を蚕の繭から取る、その取り方にあります。
大島紬以外の紬は、ぐつぐつと煮て柔らかくした繭を少しずつつぶし、伸ばして平らなガーゼ状にしたものから手で絹糸を引き出して行きます。
このガーゼ状の状態の繭のことを“真綿”と言い、真綿から絹糸を数本引き出しては、撚りながらまとめて一本の絹糸にして行くのです。

一方、大島紬の絹糸は、繭を煮ることは同じでも、その繭から機械で数本ずつ糸を引き出して撚る、機械繰糸(きかいそうし)の方法を取っています。
手紬ではところどころ節が出来、それが素朴な味わいを生み出すのに対し、機械繰糸の糸はすっとなめらか。絹糸の輝きをそのまま保った大島紬の洗練された印象は、機械繰糸によって生み出されているのです。

図案を描く

column01_03
こうして出来上がった糸を大島紬へと織り上げるために、図案の準備をします。図案は大島紬の設計図と言うべきものです。
大島紬に限らず、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)で織ることによって模様を表す紬の織り物では、絵を描くように自由には斜めの線を表現することが出来ません。
そこで、専門の図案家が大島紬専用の方眼紙状の用紙に、経緯(たてよこ)糸の位置を示した図案を描いて行きます。

column01_04
この図案はコンピューターに取り込まれ、織りの作業の設計図となります。

締め機(しめはた)~~糸を染めるための準備

次に、糸を染めます。紬のきものは機(はた)で織る前に糸を先に染めておきますが、例えば地の色が黒で、そこに赤で花柄を入れたい場合、一本の糸の大部分を黒に染め、柄が出る部分のみを赤で染めるというように、染め分けをしておかなければいけません。なかなかに複雑な工程となるのです。

column01_05
大島紬では、この染め分けのために“締め機(しめはた)”という機械を使います。他の産地では見られない独特の機で、一見、普通の機のように見えますが、サイズが一回りほど大きく、経糸(たていと)には木綿糸がかかっています。
この締め機の緯糸(よこいと)に大島紬用の絹糸を入れ、図案に従って、まるで本番の大島紬を織るように仮の布を織るのです。花柄を表す部分に経糸の木綿糸が下りて来て、緯糸の絹糸をギュッと締めつけてふさぐことになり、こうして出来た仮の布を染料液に浸すと、締めてふさいだ部分だけが白く残り、後から別の色に染めることが出来るのです。

column01_06
このようにして、一枚のきものを織るために必要な経糸と緯糸の一本一本すべてについて、正確に、模様部分が締められて行きます。この仮の布を“絣筵(かすりむしろ)”と呼びますが、ゆるく織っていると地の色の染料が染み込んでしまうため、必ず強い力できつく織らなければいけません。そのため、締め機の作業は男性が行うことが一般的です。

実は、大島以外のほとんどの産地では、この工程を締め機ではなく、手で糸をくくる“絣くくり”によって行っています。大島でもかつては絣くくりを行っていたのですが、明治末期から締め機の方法が導入されました。

泥染め

大島紬で特に有名なのが、独特の黒の色です。これは、大島に自生する“車輪梅(しゃりんばい)”の樹皮から出る染料で染めたものです。
では、何故「車輪梅染め」とは言わず、「泥染め」と言うのでしょうか?その過程を撮ったものが下の二枚の写真です。

column01_07
締め機で織り上げた“絣筵”を車輪梅の染料液につけた後、何と沼の泥の中へとつけ込んでいます。車輪梅に含まれるタンニンと大島の土地の沼や田んぼの泥に含まれる鉄とが化学反応して、独特の大島の黒が出来上がるのです。

摺り込み捺染と織り

こうして地の色を染めた後、絣筵の木綿糸を外します。すると染まらなかった部分が白く残っているので、そこに“摺り込み捺染(すりこみなっせん)”と言って、染料を塗りつけて行きます。例えば黒地に赤の花柄にしたいのであれば、白く残った部分に赤の染料を塗りつける訳です。

column01_08
その後、塗り分けられた経緯(たて・よこ)の糸をそれぞれ機にかけ、いよいよ私たちが手に取る大島紬が織り上がって行きます。締め機と異なり、織りは多く女性が担当しています。

きものサローネで出会える大島紬

このような複雑な工程を経て作られる、大島紬。今年のきものサローネ「きものマルシェ」には、大島紬の伝統技術をしっかりと継承しながら、現代のファッション感覚を取り入れた「奄美島絹推進協議会」「ワンズベスト」、二つのブランドが出展します。気になる商品を少しだけご紹介しましょう。

奄美島絹推進協会

column01_09

左の写真のきものと帯は、共に、奄美大島で作った糸から織られたもの。きものは、奄美で育てた蚕から取った「奄美絹」を、奄美に自生する車輪梅やソテツなどの植物染料で染めたもの。帯は、奄美大島で育てた芭蕉布を織り込んだしゃれ袋帯です。

中の写真のきものは、伝統の泥染めで染め、絣筵で模様を織り出したもの。一方で、従来の大島紬の伝統にとらわれず、大胆に縦ぼかしを入れたデザインが新鮮な一枚です。

右の写真のきものと帯は、軽く光沢のある大島の糸を使いながら、大島伝統の絣模様を全く織り込んでいないもの。今の時代の感覚にふさわしい、新しい大島紬。半幅帯で軽やかに。

ワンズベスト

※きものサローネ出展期間以前に店頭でご成約があった場合、出品商品が変更となる可能性があります。

column01_11
大島紬の一番の特長である、泥染め。南洋植物の葉柄、そして古典の車模様を、締め機と絣筵の伝統技術を使って織り出しています。泥染めの色合いを現代のデザイン感覚で楽しめるおしゃれな二枚です。

column01_10
泥染めに次いで人気の高い、白大島。左は「龍郷(たつごう)柄」と呼ばれる大島独特の伝統模様を、現代風にアレンジしたもの。右の「雪輪」柄も伝統柄ですが、とてもモダンな感覚です。泥大島と同じく、締め機と絣筵の伝統技術で精緻に織り上げられています。

「奄美島絹推進協議会」と「ワンズベスト」は、10月7日(水)~9日(金)11:00~20:00、YUITO室町野村ビル5F「きものマルシェ」に出展します。
ゼヒ実物をご覧になってください!

  • きものNightCOREDO室町1三井ホール 10/8(木)9(金)
  • 企画展「きもの100体スタイリズム」江戸桜通り地下歩道 10/8(木)~10(土)
  • きもの企画展&SHOWCOREDO室町1三井ホール 10/9(金)10(土)
  • きものマルシェYUITO日本橋室町野村ビル 10/7(水)~9(金)
  • オリジナル小型印サービス 10/7(水)~10(土)
  • 日本橋を愉しむ<きもの割引> 10/7(水)~10(土)
  • チケット購入
  • サローネ出展者と出演者をもっと深く知るためのインタビュー&コラム