モダンでありながら古典の品格をたたえた独自の作風で、きものの目利きから高い評価を受ける京都の染色アトリエ「室華風」。きものサローネがお届けする「TOKYO KIMONO COLLECTION」には、今年で3回目の参加となります。
アトリエを率いる津室伸吾さんは、現在37歳。染色作家でありデザイナーである津室さんが今回のサローネでどんなショーを展開するのか、日々の制作の様子とあわせてお伺いしました。

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サローネ(以下、S)―― 「室華風」は、津室さんのお父様が始められたブランドなのですよね?

津室―― はい。父はもともと染色の加工屋として問屋さんからの注文に応じて制作をしていたのですが、バブル崩壊の頃からぐっと注文の数が減ってしまったんですね。それならば、「自分の個性を前面に出して、好きなものを作って行こう」と、そういう思いで立ち上げたのが「室華風」です。

S―― 当時、独自のきものメゾンを立ち上げるというのは大きな挑戦ですよね。

津室―― そうですね。父が独立した時、僕はまだ小学生でしたが、とにかく毎日父が懸命に仕事をしている姿を見て育ちました。だんだん「室華風」が大きくなって、友禅染め、ろうけつ染め、箔置きの職人さんも所属するようになり、やがて工房と自宅が一つになったのですが、毎日外に遊びに行く時も、職人さんや父が一心にきものを描いている、その工房を通って外へ出るんです。そういう環境で成長しました。

S―― その中で、ごく自然に、ご自身も染色を仕事にしたいと思うようになったのですか?

津室―― 父からは継げと言われたことはなくて、大学も一般の大学に進学したんです。でも、だんだんと、きものを創作するという仕事が本心から「ええ仕事やな」と思えるようになっていて…
ちょうどその頃、父が、僕と同世代の若い職人さんを雇い始めたんですね。職人というのは、一人育てるのに10年近い時間がかかりますから、本当はもともと腕のある即戦力の職人さんを雇った方が楽なんです。それを敢えて若い人を採るということは、僕が継いだ時に一緒に走る人間を育てようとしてくれているんだな、と。

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S―― そこで「室華風」に入る決心が固まった訳ですね。

津室―― はい。最初は見習いから始めて、一から職人さんの教えを受けて様々な染めや技法の勉強をしました。それから、うちの工房では手掛けない型染め技法の工房、板場と言うんですが、板場にも修業に行って、「型染めで何が出来るのか」ということを体で覚えることもしましたね。今では、「表現として、ここは型染めを使いたい」という時は、その板場にお願いしているんですよ。
実は、板場というこの染め場は、京都の染色業界において大変重要な存在であるにも関わらず、近年のきもの総生産量の落ち込みや職人さんの高齢化、それから設備の老朽化などの理由によって、急激にその数が減少しているんです。いずれは小規模でもいいので自分の板場を持って、安定して染色出来る環境を保持して行くことも考えなければと思っています。

S―― そうなんですか。思った通りの表現を展開するために、経営方針も含めて、大きな視野を持たれているんですね。津室さんはデザイナーであり染めの職人であると同時に、「室華風」ブランドの経営者でもあるのですものね。

津室―― はい。そう言えば、工房に入ってからの修業時代、染め上がった反物を納品に行くのも僕の仕事で、そうやって、問屋さんと顔をつないで行く営業活動もしていましたね。

S―― そんな風に、職人として、そして「室華風」ブランドの後継者として修業を積まれた訳ですが、今、「室華風」はどんな体制できもの作りをされているんですか?

津室―― 工房には、現在、ろうけつ染めの職人が四人と、それから描き友禅と箔置きの職人が一人ずつ。そして僕と父という体制です。父も今も現役なんです。
ただ、僕や父は、今は実際に染めに手を動かすことは少ないですね。二人の仕事は、職人さんたちに何を染めてもらうか、そのアイディアを構想して、図案を描く・そして色を決めて行くこと。その上で、一人一人の職人の個性をよく見きわめて、ここはあの人に任せよう、こういう線はあの人が得意だから、と仕事を振り分けて行きます。

S―― なるほど。一つの作品を全て一人で、また、一つの技法だけで作る訳でもないんですね。

津室―― そういう作品ももちろんたくさんありますが、幾つもの技法が組み合わさって出来るものもたくさんあります。例えば、ろうけつ染めは非常にシャープな線が出せるので、輪郭はろうけつ染めで描いて、中の柄の細かいところは描き友禅で‥などという風に、表現したいことに合わせて技法と職人さんを使い分ける訳です。

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S―― なるほど!そうやって出来て行く「室華風」の作品、今回のサローネのショーではどんなテーマで見せて頂けるのでしょうか?

津室―― 実は、今回は、敢えてノー・テーマで行こうと思っているんです。

S―― それはまたどうしてでしょう?

津室―― 日々制作をしている中で、頭の中に浮かんでいても形にしていないイメージやアイディアって、結構蓄積されて行くものなんですよね。この1年の間に蓄積されたたくさんのアイディアや、加工に時間がかかるためになかなか普段は取り掛かれない技法を、この機会に敢えてテーマに縛られることなく形にする。そういう意味で、ノー・テーマなんです。

S―― なるほど。それは期待が高まります。

津室―― 例えば、これは象をモチーフにした図案なんですが、或る時ふと象のフォルムが面白いなと思って、ずっと頭に残っていたイメージを形にしました。

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S―― わあ。でも、こうしてきものに落とし込まれると、パッと見た時には象と分からないですよね。

津室―― そうなんです。抽象的な幾何学模様のように見えて、実は象だ、というきものになります。

S―― なるほど、とても凝っていますね。象のフォルムの中は唐草やペーズリー柄でしょうか‥全体に、ちょっと中東や南アジアの雰囲気を感じさせる、エキゾチックな感覚がありますね。

津室―― はい。これをどういう配色で染めるかということを今考えているところです。地の色は茶と紫の中間のような色で、模様の部分にどう色を挿して行くか‥

S―― 華やかなきものになりそうでとても楽しみです!

津室―― それから、こちらは打って変わって、歌麿の『夜の雨』という浮世絵をモチーフにした作品なんですよ。

S―― 何とも粋な図案ですね!

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津室―― このきものでは素材にも凝ろうと思っていて、と言うのも、こういう染めのきものは普通、縮緬に描きますよね。でも、新潟の栃尾紬というちょっと節があるような癖の強い紬の、中でも柿渋で染めた反物に、ろうけつ染めで染めようと思っているんです。

S―― 何故その反物なんですか?

津室―― 柿渋で糸を染め、1年間乾燥させた後、その糸を織り込んで出来上がった生地なんですね。そのため、地の色が白ではないんです。ちょっと赤味がかった色になっていて、そういう反物に染めるには強い色の染料を使う必要があります。そうやって描いた時に生まれて来る質感が、もともとの栃尾紬の癖の強さとも相まって、これまで誰も見たことのないものになるだろうな、と。

S―― 素人には分からないような裏側のところに、津室さんの強いこだわりが込められている訳ですね。

津室―― はい。でも、実際に作品として見て頂いた時には、「何だか分からないけれど、でも、何か見たことがない新しい感じがする」というように、新鮮な感覚として伝わると思っています。

S―― なるほど!

津室―― 柿渋染めの栃尾紬の存在は前から知っていて、ずっと使いたいと思っていたのですが、今回のショーが決まって、この間新潟の機屋さんまで行って実物を見て、織り手さんの熱いもの作りの姿勢に共感して‥「よし、栃尾紬で染めよう」と。

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S―― 何だか津室さん、楽しそうですね。

津室―― はい、楽しいです(笑)。何しろ、頭の中にずっと引っかかっていたアイディアやイメージを、今、何の制約もなくストレートに、一つずつ形にしている訳ですから。
ふだんの“着るためのきもの”の制作とは違った、目で見せることに重きを置いたショーのきものの制作は、色使いや構図も変えて行かなくては見る方に伝わりません。本当に良い勉強になりますね。

S―― 一人のクリエイターが、蓄積したまま形にしていなかったアイディアを自由自在に爆発させている状態、ということですね。本当にショー当日が楽しみです。

津室―― まだまだたくさんの作品が登場しますから、ゼヒ期待していてください。

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S―― はい!今日はありがとうございました。

TOKYO KIMONO COLLECTION「室華風 津室伸吾」のショーは、10月10日(土)14:00から、COREDO室町1‐5F、日本橋三井ホールにて開催します。

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  • きものNightCOREDO室町1三井ホール 10/8(木)9(金)
  • 企画展「きもの100体スタイリズム」江戸桜通り地下歩道 10/8(木)~10(土)
  • きもの企画展&SHOWCOREDO室町1三井ホール 10/9(金)10(土)
  • きものマルシェYUITO日本橋室町野村ビル 10/7(水)~9(金)
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